2016年9月8日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)は、楢葉町の楢葉南工業団地に楢葉遠隔技術開発センターを設置しました。2016年4月に本格運用をスタートした同センターは、遠隔操作技術の研究開発拠点です。ここでは、燃料デブリを取り出すための工法を見極めるための実証試験、災害対応ロボットの性能評価など、廃炉プロセスと直接つながる取り組みを行っています。
関係者が集まる拠点を整備し遠隔操作技術の進化を加速する
JAEAは原子力に関する様々なテーマについて研究開発を行っています。その1つの柱が、1F事故後の廃止措置に向けた研究開発です。その拠点となるのが、楢葉遠隔技術開発センターです。同センターはJヴィレッジから西に1キロほど、楢葉町南部の山田岡に建設されました。
2015年9月に一部運用が始まり、翌16年4月に本格運用がスタートしています。
「廃炉措置に向けて、国内外の英知を結集する場をつくる。それが私たちの役目です。楢葉遠隔技術開発センターは、廃炉措置に関係する企業や団体など、多くの方々に使ってもらう施設です。廃炉プロセスを進める上で、ロボットやシミュレーションなどを含めた遠隔操作技術の進化は欠かせません」と話すのは、JAEA楢葉遠隔技術開発センターの小島久幸氏です。
同センターを運営するJAEAの役割は、研究開発施設の維持管理だけではありません。小島氏は「廃炉措置に関係する企業などが手掛けにくい部分をJAEAが担うことで、よりよい研究開発環境を実現する。そんな役割を果たしていきたい」と考えています。
同センターの代表的な研究開発テーマとしては、第1に、8分の1にカットした格納容器下部の実規模の模型を使用した、燃料デブリの取り出しに向けた実証試験をサポートすること。第2に、災害対応ロボットの実証試験の環境を提供すること、第3にVRシステムを含めたシミュレーションを整備し廃止措置に関わる作業者訓練に供すること。今、これらのテーマに沿った研究・開発活動が進められています。
燃料デブリを水中で取り出すか、空気中で作業するかを見極める
第1の研究開発テーマについて。1Fの廃炉措置に向けて、燃料デブリの処理は避けて通れない課題です。特に、燃料デブリをいかに安全に、かつ確実に取り出すかは、高度な技術を要するテーマです。現在の段階では、冠水工法と気中工法の大きく2つの方法が検討されています。
冠水工法は格納容器を水で満たし、水によって放射線を遮断した上で、燃料デブリを取り出す工法。被ばく低減の面で優れていますが、必要な水位を維持できるのかを見極める必要があります。
もう一方の気中工法では、格納容器を水で満たしません。燃料デブリの取り出しは空気中での作業となるため、気体状の放射性物質の放出を抑制する必要があります。
いずれの工法においても、人が近づいて作業はできないため、ロボットなどの遠隔技術が必要になります。
「どちらの工法を採用するかを見極めるための技術開発は、IRID(技術研究組合 国際廃炉研究開発機構)が主体となって行います。まずは、冠水工法の実証試験で用いられるのが、原子炉下部の8分の1を切り出した実寸大模型(モックアップ)。この実寸大の試験体を使って、本当に漏水防止が可能かどうかの検証が行われます」(小島氏)
様々な環境で活動するロボットの能力を確かめる
第2のテーマは災害対応ロボットの実証試験です。同センターの試験棟には、様々な試験設備が置かれています。1F内をロボットがスムーズに移動できるかどうかを確かめるためのモックアップ階段、ロボット試験用水槽などです。モックアップ階段は階段の幅や角度などの調節ができ、いろいろな階段を用意して、ロボットが昇り降りできるかを確認することが可能です。
第3にシミュレーション技術の研究開発で大きな役割を担うのが、バーチャルリアリティ(VR)システムです。研究管理棟に設置されたVRシステムルームに入ると、前方・左右・床に映像が投影されます。この映像は1Fの設計データや現場情報をもとに、実物を忠実に再現するようつくられたもの。現在は、2号基(1階と地下階)のデータになりますが、スクリーンの前に立つと実際に炉内を移動しているような体験をすることができます。
炉内は高線量のために作業時間が限られますが、VRシステムを活用することにより、作業計画の立案や作業計画に沿った訓練などが可能になります。訓練者が施設内の環境に慣れることで、作業の実施はよりスムーズなものになると期待されています。また、訓練者の移動情報は記録、再生することができ、後で訓練内容を確認すれば、改善のヒントを見つけることも可能です。
実際の廃炉作業においては、施設内の特定の場所に大きな機材を運ぶケースもありますが、VRシステムを使うことで、機材が通路を通過できるか、途中に障害物はないかといったことを事前に検証することができます。そのため、他号基のデータも随時増やしていく考えです。
楢葉遠隔技術開発センターは毎日のようにいろいろな試験が行われており、遠隔技術の最先端を切り開いています。同センターが実現した成果は1Fで活用され、廃炉プロセスの安全性向上や効率化などに貢献していきます。研究者や技術者たちは、そんな使命感を胸にこれからも試行錯誤を繰り返し、よりよい作業環境を提供できるよう開発に力を注いでいきます。
- 肩書き
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国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構
福島研究開発部門 福島研究基盤創生センター
楢葉遠隔技術開発センター
施設部 次長 兼 モックアップ試験施設部 次長
小島 久幸さん
- 楢葉遠隔技術開発センターの研究開発棟(左)と巨大な内部空間を持つ試験棟(右)
- 試験棟の内部に設置された実規模実証試験設備。内部にはサプレッションチェンバの実寸大、1/8セクター試験体が置かれている
- 試験棟内に置かれた試験用水槽は、炉内の状況を模してつくられたもの。水中ロボットの実証試験に活用される
- 試験棟内にはいくつかの要素試験設備がある。これにより1F内部に近い環境を再現し、災害対応ロボットなどの性能を確かめる
- 1Fの施設内を模した空間の映像がスクリーンに投影され、施設内にいるような感覚を体験できる