2016年10月25日
3号機の使用済み燃料の取り出しに向けて、『福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋カバーリング工事共同企業体』によって、小名浜地組ヤード工事事務所で作業が進められています。
3号機の燃料取り出しのために建屋を覆う巨大な構造物
1Fから南に約50km。いわき市小名浜の海岸近くを走っていると、金属製の巨大な構造物がいくつも目に飛び込んできます。ここは、3号機の使用済み燃料取り出しのための構造物を組み立てている小名浜地組ヤード工事事務所です。
ここにある最大の構造物は、FHM(Fuel Handling Machine=「燃料取り扱い装置」)ガーダーで、長さ60m、幅23m、高さ6mで重さはなんと約850トンという巨大な鉄骨のかたまりです。これは、3号機原子炉建屋の上部に設置するもので、FHMと燃料の取り出しや積み込みに使う門型クレーンをここに取り付けます。
その上に乗せる屋根は、長さ60m、幅23m、高さ18m、重さは約450トン。8つのブロック(部品)に分けて組み立てられています。
「FHMガーダーは巨大なため、そのまま1Fに運ぶことはできません。そこで、まず小名浜で地組(仮の組み立て)をして、いろんな確認をしています。その後海上輸送するため、いったん分解後して船で1Fまで運び、1F構内で再度、組み立てます。屋根もそれぞれ1Fに運んで、構内で組み立てます」と説明するのは、3CCP(福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋燃料取り出し用カバー工事)工事長の加藤和宏さんです。
従来の技術を組み合わせて最適な方法を選択した
写真でもお分かりのように、屋根はカーブを描いており、2つのブロックを向かい合わせて組み立てると、断面はカマボコ形になります。ここに設計上の大きな工夫があります。
「最初の段階では、四角い屋根を考えていました。しかし、3号機は建屋上部にあるオペレーションフロアは損傷があり荷重の負担をかけられないことから、建屋外側にブリッジの形でガーダーを架け、その上に屋根を載せる計画としました。それを実現するためには構造的に強度を持ちながらも軽量化することが必要となります。カマボコ型のドーム屋根にして、鉄骨をトラス構造にすることで鉄骨の量を減らして軽くできました。もちろん、台風や地震に耐える強度は十分に確保しています」と加藤さん。
構造部分の素材は、一般的なビルや橋で使われるのと同じ鉄骨。また、屋根部分はガルバリウム鋼板といって、工場の建物の屋根や外壁によく使われる素材で、軽いのが特徴です。
「新しい技術を追求するのももちろん大切ですが、ここではむしろ、従来からある技術をうまく組み合わせることで、確実で最適な方法を選んできました」
もう一つ、設計上での大きな工夫は、線量の高い1F構内での作業をなるべく減らすこと。そのために、いくつかのブロックに分ける方法にして、可能な限り小名浜で完成させ、1F構内ではそれを組み合わせればいいようにしています。
「オペレーションフロアは除染や遮へい作業によって線量がだいぶ低くなりましたが、それでも高線量下で作業をする作業員の健康と安全を守るため、一人当たりの実質的な作業は1日1時間半程度までと考え、定められた線量を超えない計画を立てるとともに、その試験や訓練をしています」
作業員が短い時間で交代をしながら、どのようにすればうまく全体の作業を進めていけるかは、小名浜での訓練にかかっていると加藤さんは語ります。
1Fでの作業時間を減らすために細かい点まで訓練を行っている
1Fでの作業時間は限られていますから、小名浜では細かい点に至るまで訓練を繰り返し、少しでも1Fでの作業量を減らすことに注力しています。
例えば、クレーンでFHMガーダーのブロックを吊り上げる訓練もその一つ。一般的にクレーンで資材や建材を吊り上げるときは、4本のワイヤーロープを使って、いわゆる4点吊りをします。ただ、それぞれのブロックの形が複雑なために、4点にかかる重さにかなり差が出てしまいます。
「そこで、まずワイヤーロープ、チェーンブロックの長さを調整して、ブロックが水平に上がるようにします。通常ならば、現場で一つひとつ試しながら調整していくのですが、1Fではそんなゆっくりしていられません。そこで、小名浜であらかじめそれぞれのブロックを水平に吊り上げる試験をして、そのときの記録をとっておくことにしました。1Fでは、作業前にその数字に合わせてワイヤーロープ、チェーンブロックを準備しておけば、作業時間を減らせるわけです」
こうした試験や訓練の成果をもとにして、図や写真を多く使った作業マニュアルやビデオが作成されています。また、ワイヤーロープ、チェーンブロックの長さなどは、ただ作業マニュアルに数字を記すだけでなく、実際のユニットにも貼り付けて、作業員の方にわかりやすいように工夫しています。
「要は、現地で作業をする方々が、『こんなことは初めてだ。どうすればいいのか?』と迷うことのないように準備するのが、訓練の目的です。それによって、作業員が交代してもスムーズに作業が進められるようになるはずです。とはいえ、マニュアルやビデオで見るのと、実際に操作するのとでは違うと思います。作業員の方には、なるべく一度小名浜に来ていただき、実物を見てイメージを実感していただくようにはたらきかけています」
さらに、1Fでの作業時間を短縮するために、必要なダクト類や照明類などは、できる限り小名浜で取り付ける作業をしています。そうした機械を扱う機械チームの設計部門と、構造物を組み立てる建築チームの設計部門がタッグを組んで設計をするというのは珍しいとのこと。部門や企業を超えたチーム力で安全・確実な廃炉を目指しています。
- 肩書き
- 福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋カバーリング工事共同企業体
燃料取り出し用カバー工事 工事長
加藤 和宏さん