2015年12月1日
- 大浦 仁さん
- 株式会社 東京エネシス 原子力本部
福島総合支社 機械工事部 副長
廃炉に向けて、難しい問題として立ちはだかる汚染水処理。安全で安心な処理を進めるため、現在、事故の直後から汚染水をためてきた現存するタンクを、より安全性の高い新しいタンクに交換しているところです。「大切なのは配管を取り外すとき。少しの汚染水も漏らすことのないよう最大の注意を払っています」と語る、東京エネシス・副長の大浦仁さんにお話を伺いました。
どのような作業をしているのですか。
大浦さん:
現在は、汚染水タンクのリプレースと解体工事にともなう配管の 撤去、タンクに残っている汚染水の移送、タンクの洗浄などです。そのなかで、管理者の立場で仕事をしています。なかでも重要なのは、フランジ(継ぎ目)のあるタンクから、配管を安全に取り外す仕事です。
汚染水が外に流れ出ないよう、配管の養生には特別な方法をとり、作業の手順にも間違いがないように、現場で働く人たちとは念入りにコミュニケーションをとっています。
作業員さんの体調管理がなによりも大切
とくに、どういう点に注意をなさっていますか。
大浦さん:
私の班は朝5時半に1Fに集合するので、平日は毎晩9時前に寝て、午前2時半から3時ごろに起きるという毎日です。ですから、朝に合わせて体調管理をすることがとても大切で、毎朝のミーティングでも、作業員さんの体調管理には気をつけています。みなさんの顔色や表情を見て、体調を判断するのも私の重要な仕事です。体調が悪いのに無理をすれば、事故や災害につながってしまいます。
作業員さんとの打ち合わせで大切なことは。
大浦さん:
1つひとつの工事仕様を説明するときには、なぜそれをするのかという理由をきちんと伝えるようにしています。つまり、「この機材を、ここからあそこに動かしてほしい」という言い方ではなく、「○○という目的があるので、この機材をここからあそこに動かしてほしい」という言い方で仕様を説明するのです。作業員さんたちは、目的や理由がわからなければただ動かすだけで終わってしまいます。ときには、「なぜ?」「面倒だな」という気持ちも生まれるでしょう。そうなると、ケガやミスにつながる恐れがあります。でも、「ここには別の機材を置くから」と言われれば、あいた場所をきれいに掃除しようという気持ちになりますし、「移動する機材は重要なものです」といえば機材を大切に扱おうという気になります。そうしたことを通じて、仕事に対する意欲やプライドをみなさんに持っていただきたいのです。
みんなの気持ちが1つになれば不可能が可能になる
どうやって気分転換をしていますか。
大浦さん:
寝る前に少しだけお酒を飲むことでしょうか。焼酎が好きなのですが、9時前には寝るので飲みすぎないようにしています。たいていは、いわき市内の寮で飲んでいるのですが、たまには居酒屋にも行きます。そのときは5時半ごろの開店と同時に入って、7時には寮に戻るというパターンです。私にはこれで十分ですね。
休日はどのように過ごしていますか。
大浦さん:
現在はいわき市内に単身赴任中ですので、毎週末は妻と娘2人が住んでいる郡山へ行ってきます。ただ、ふだんのくせで、明け方早く目が覚めてしまうのは困りものです。しかたがないので、犬の散歩やジョギング、そしてシャワーを浴びてから1人でご飯を食べてテレビを見ていると、ようやく家族が起きだすという感じですね。それから、時間が合えば近所まで家族で出かけることもあります。
これまで印象に残ったお仕事はありますか。
大浦さん:
1998年から2000年にかけて行われた、1Fの2、3号機の原子炉格納容器圧力抑制室の塗装工事です。のべ1万人がかかわり、2年かけて完了した大工事でした。何十年に1回の工事なので、経験した職人さんはいらっしゃらず、最初は手さぐりの状態。メーカーさんからの指導をもとに、ものをつくるところからはじまりました。塗装工事といっても、塗装の職人さんがいれば、それでできるわけではありません。足場を組み立てる人、塗装や研掃・換気装置の設置をする人など、すべての人が力を合わせることで、品質がよいものを納めることができます。それをできたのが、この工事でした。この仕事をやっていてよかったと心の底から感じた体験でした。
震災前からずっと1Fで仕事を続けてきたんですね。
大浦さん:
廃炉工事にあたっては、震災前を知っている人がいるべきだと思うのです。ところが、震災前からいた人の何人かは、事故直後の大変な時期に仕事をなさったことで、被曝放射線量が上限値を越えてしまったために、1Fで仕事が続けられなくなってしまいました。私も多少の線量を残しているので、ここにいることができます。そして、できる限りのことを後輩たちに伝えたいと考えています。高い水準の知識と技術を次の世代に伝えることは、昔を知る私たちの務めだと思うのです。
- プロフィール
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大浦仁さん
- 【出身地】福島県浪江町
- 【好物】かんきつ類が好き、海沿いの育ちだが、なま物は苦手。
- 【休日の過ごし方】犬の散歩、ジョギング、サッカー
- 【最近はまっていること】グレープフルーツを肴に焼酎を飲むこと
震災前までは地元、浪江町の少年サッカーチームの監督をしており、今も休みの日にはサッカーで汗を流す
1991年に入社。すぐに1Fに配属され、定期検査や工事に携わる。その間、東京本社に1年間勤務、柏崎刈羽原子力発電所や東海発電所に応援で行ったことはあるものの、それ以外はずっと1Fで仕事をしてきた。
- お勤め先
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株式会社東京エネシス
1947年に株式会社東京電氣工務所として創業。2001年に株式会社東京エネシスに改称。発電所、変電所、工場などの建設・保守管理をはじめ、土木、管路、建築工事の設計・施工、保守点検などに取り組んでおり、福島第一原子力発電所の廃炉作業においては、汚染水処理系や循環冷却系などの設備保守点検工事を行っている。