2016年7月6日
- 池永 信之さん
- 東芝プラントシステム株式会社
原子力フィールド試験技術部 試運転グループ 主任
1Fでは安全な廃炉作業に向け、大きな設備から小さな機器まで、さまざまな設備が使われています。そうした設備を新しく据え付けるときに、必要なのが機器のチェックや性能の確認であり、「試運転」の仕事です。今回は、1Fで水質管理設備を中心として、試運転にたずさわっている東芝プラントシステムの池永信之さんにお話をうかがいました。
仕事の内容をわかりやすく教えていただけますか。
池永さん:
新車納入に例えてみるとわかりやすいと思います。車が納品されると、ワイパーが動くか、ブレーキがきちんと動作するか、ランプが点灯するかというように、まずそれぞれの動作を確認します。次に、実際に走らせてみて性能を確認し、必要があれば細かい部分調整し、お客様に引き渡します。これと同じように、設備や機器を据え付け、お客様に引き渡す前にその設備の性能を確認するというのが試運転という仕事なのです。
新しい機械の操作手順を一つひとつ「試験要領書」に詳しく記録する
具体的にはどのような設備の試運転をなさっているのですか。
主に水質を管理する設備の試運転をしてきました。私は2011年の秋に1Fに来ましたが、最初に試運転をしたのが、多核種除去設備(ALPS)に汚染水を送るための滞留水処理設備でした。今と違って重要免震棟が狭かったために、座る場所を探すのも大変な時期でした。その後、増設ALPSの試運転では、6時間4交代の24時間体制で管理していました。試運転が終わり引き渡した後も、運転の支援を行っています。
少し前に試運転を終えたのは滞留水移送設備です。これは、1~4号機建屋にある滞留水を、ポンプを使ってサリーやキュリオンと呼ばれるセシウム吸着装置へ送る設備です。この試運転には、3カ月近くの時間を要しました。
メンバー数は設備の規模によって違いますが、増設ALPSの試運転では、全体で20人ほどが交代で作業をしていました。
毎日のスケジュールを教えてください。
事務所で作業をする日と、現場で作業をする日があります。事務所で作業をするときは、2Fにある事務所に8時に出勤。機器の試験の進め方をまとめた「試験要領書」を作成します。試験要領書は、機器を扱うときの一つひとつの手順を、間違いがないよう詳しく記載していきます。増設ALPSの場合には、約100ページの文書になりました。
試験が終わると、報告書や取扱説明書を作成します。定時は17時までですが、ときには深夜になることもあります。
現場での試験時には、私も現場に行ってメンバーの指揮をとります。そのときは、いわき市内のホテルを朝の4時半頃に出発して、1Fで5時半からミーティング。7時から作業を始めるというスケジュールです。
現場では、それぞれトランシーバーを持って連絡をとりながら、試験要領書に従って試運転を進めます。
特にどのようなことに気をつけていますか。
現場は放射線量の高い場所もありますので、全面マスクと保護衣が必要です。さらに作業内容によっては、その上にカッパを着てガードしますので、夏はかなり暑くなり、熱中症に気をつけなくてはなりません。
保護衣を着て作業をしている方はみな同じでしょうが、水分の補給やトイレタイムには気をつけています。作業の途中には休憩がありますが、それ以外のタイミングでトイレに行くと、それだけで30分以上作業が止まって、仲間に迷惑をかけてしまいます。もちろん、我慢できない場合は仕方ありませんが、私は指揮をする立場なので、そういうことのないように神経を使っています。もちろん、熱中症予防にある程度は水分をとりつつも、トイレが近くならないようにコントロールしなくてはなりません。
また、今は朝が早いのに慣れましたが、当初は遅刻をしては大変なので、ずいぶん緊張をしました。パッと目が覚めてみると、まだ夜中の1時半でほっとしたということも何度かあります。
無事引き渡すことができてうまく運転してもらえるのが喜び
仕事上で大切にしていることはありますか。
仕事は大変だとはいえ、完遂しなくてはなりません。それならば、いやいややるのではなく、楽しんで前向きな気持ちで取り組みたいと思っています。仕事を楽しむためには、いろいろなことを想定して、しっかりと準備をすることが大切です。予定外のことが起きてしまうと、立ち止まって考えなくてはなりませんが、事前にいろいろと想定しておけば、無駄な時間をとることがなく、仕事が早く進むので気分も良くなります。
そして、仕事がスムーズに進めば、仕事の仲間ともいい関係になります。そうなると、また仕事が順調に進んでいくという好循環につながっていきます。チームでやる仕事なので、そうしたコミュニケーションが大事だと考えてしっかり準備をしています。
どういうときに、この仕事をやっていてよかったと感じますか。
グループで前向きに仕事ができ、要求する機能をすべて満たして、無事引き渡せたときですね。そして、引き渡した後で、うまく運転できているというのが、私たちにとって一番の喜びです。
1F全体の中で、私たちが試運転をする一つひとつの設備は小さい存在かもしれませんが、それが集まって汚染水の浄化、さらには1Fの安定化と廃止措置という大きな仕事につながっている──そう考えると、自分たちの仕事が世の中に役立っていると思うことができ、やりがいを感じます。
オフの時間はどのように過ごしていますか。
次の日があまり忙しそうでなければ、グループで軽く飲みに行くこともあります。メンバーは50代のベテランから20代まで、さまざまな世代の人がいますが、お互いに意見が言いやすい雰囲気なのはいいですね。
家族は、本社のある横浜に住んでいます。土日が連休のときは金曜日の夜に自宅に帰り、小学2年生になる娘と遊ぶのが楽しみです。土曜日が仕事の場合は、日曜日にゴルフに行くこともあります。いわき市の中心部から車で30分ほどの場所にゴルフ場がいくつもあり、値段も関東にくらべると安いので、気軽に出かけることができて嬉しいです。
- プロフィール
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池永 信之さん
- 【出身地】福岡県福岡市
- 【好物】ローストビーフ
- 【趣味】ゴルフ
1993年入社以来、原子力発電所設備の試運転一筋。女川原子力発電所2号機建設プラントをはじめ、浜岡、柏崎刈羽5、6号機、東通など、日本各地の原子力発電所で経験を積んできた。1カ所あたり1年半から2年ほど単身赴任をするので、たまの連休に自宅に帰って娘さんと会うのが楽しみ
- お勤め先
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東芝プラントシステム株式会社
2004年に東芝プラント建設と東芝エンジニアリングが合併して現社名となる。1923年に東芝プラント建設の前身となる三興電気事務所が創立。電力システムや原子力システムなどの発電設備の設計、施工、試験調整・試運転のほか、各種産業生産設備、ビル、上下水道、情報通信、空港、道路、鉄道などのインフラや環境に関わる設備の設計、施工、フィールドサービスなどを主に行っている。