1 FOR ALL JAPAN 廃炉のいま、あした

1Fを守る仲間たち

池永信之

2016年7月6日

INTERVIEW 13 気持ちよく仕事を進めるにはしっかりと準備をすることが大切

池永信之池永いけなが 信之のぶゆきさん
東芝とうしばプラントシステム株式会社
原子力フィールド試験技術部 試運転グループ 主任

 1Fでは安全な廃炉作業に向け、大きな設備から小さな機器まで、さまざまな設備が使われています。そうした設備を新しくえ付けるときに、必要なのが機器のチェックや性能の確認かくにんであり、「試運転」の仕事です。今回は、1Fで水質管理設備を中心として、試運転にたずさわっている東芝とうしばプラントシステムの池永信之さんにお話をうかがいました。

仕事の内容をわかりやすく教えていただけますか。

池永さん:

 新車納入のうにゅうに例えてみるとわかりやすいと思います。車が納品のうひんされると、ワイパーが動くか、ブレーキがきちんと動作するか、ランプが点灯するかというように、まずそれぞれの動作を確認かくにんします。次に、実際に走らせてみて性能を確認かくにんし、必要があれば細かい部分調整し、お客様に引きわたします。これと同じように、設備や機器をえ付け、お客様に引きわたす前にその設備の性能を確認するというのが試運転という仕事なのです。

新しい機械の操作そうさ手順を一つひとつ「試験要領書」にくわしく記録する

具体的にはどのような設備の試運転をなさっているのですか。
池永信之

 主に水質を管理する設備の試運転をしてきました。わたしは2011年の秋に1Fに来ましたが、最初に試運転をしたのが、多核種除去たかくしゅじょきょ設備(ALPS)に汚染水おせんすいを送るための滞留水処理たいりゅうすいしょり設備でした。今とちがって重要免震棟めんしんとうせまかったために、すわる場所をさがすのも大変な時期でした。その後、増設ALPSの試運転では、6時間4交代の24時間体制で管理していました。試運転が終わり引きわたした後も、運転の支援しえんを行っています。

 少し前に試運転を終えたのは滞留水たいりゅうすい移送設備です。これは、1~4号機建屋にある滞留水たいりゅうすいを、ポンプを使ってサリーやキュリオンとばれるセシウム吸着装置きゅうちゃくそうちへ送る設備です。この試運転には、3カ月近くの時間を要しました。

 メンバー数は設備の規模きぼによってちがいますが、増設ALPSの試運転では、全体で20人ほどが交代で作業をしていました。

毎日のスケジュールを教えてください。

 事務所で作業をする日と、現場で作業をする日があります。事務所で作業をするときは、2Fにある事務所に8時に出勤しゅっきん。機器の試験の進め方をまとめた「試験要領書」を作成します。試験要領書は、機器をあつかうときの一つひとつの手順を、間違まちがいがないようくわしく記載きさいしていきます。増設ALPSの場合には、約100ページの文書になりました。

 試験が終わると、報告書や取扱とりあつかい説明書を作成します。定時は17時までですが、ときには深夜になることもあります。

 現場での試験時には、わたしも現場に行ってメンバーの指揮しきをとります。そのときは、いわき市内のホテルを朝の4時半ごろに出発して、1Fで5時半からミーティング。7時から作業を始めるというスケジュールです。

 現場では、それぞれトランシーバーを持って連絡れんらくをとりながら、試験要領書にしたがって試運転を進めます。

特にどのようなことに気をつけていますか。

 現場は放射線量ほうしゃせんりょうの高い場所もありますので、全面マスクと保護衣が必要です。さらに作業内容によっては、その上にカッパを着てガードしますので、夏はかなり暑くなり、熱中症ねっちゅうしょうに気をつけなくてはなりません。

 保護衣を着て作業をしている方はみな同じでしょうが、水分の補給ほきゅうやトイレタイムには気をつけています。作業の途中とちゅうには休憩きゅうけいがありますが、それ以外のタイミングでトイレに行くと、それだけで30分以上作業が止まって、仲間に迷惑めいわくをかけてしまいます。もちろん、我慢がまんできない場合は仕方ありませんが、わたし指揮しきをする立場なので、そういうことのないように神経を使っています。もちろん、熱中症ねっちゅうしょう予防にある程度は水分をとりつつも、トイレが近くならないようにコントロールしなくてはなりません。

 また、今は朝が早いのに慣れましたが、当初は遅刻ちこくをしては大変なので、ずいぶん緊張きんちょうをしました。パッと目が覚めてみると、まだ夜中の1時半でほっとしたということも何度かあります。

無事引きわたすことができてうまく運転してもらえるのが喜び

仕事上で大切にしていることはありますか。
池永信之

 仕事は大変だとはいえ、完遂かんすいしなくてはなりません。それならば、いやいややるのではなく、楽しんで前向きな気持ちで取り組みたいと思っています。仕事を楽しむためには、いろいろなことを想定して、しっかりと準備をすることが大切です。予定外のことが起きてしまうと、立ち止まって考えなくてはなりませんが、事前にいろいろと想定しておけば、無駄むだな時間をとることがなく、仕事が早く進むので気分も良くなります。

 そして、仕事がスムーズに進めば、仕事の仲間ともいい関係になります。そうなると、また仕事が順調に進んでいくという好循環こうじゅんかんにつながっていきます。チームでやる仕事なので、そうしたコミュニケーションが大事だと考えてしっかり準備をしています。

どういうときに、この仕事をやっていてよかったと感じますか。
チームメンバー

 グループで前向きに仕事ができ、要求する機能をすべて満たして、無事引きわたせたときですね。そして、引きわたした後で、うまく運転できているというのが、わたしたちにとって一番の喜びです。

 1F全体の中で、わたしたちが試運転をする一つひとつの設備は小さい存在そんざいかもしれませんが、それが集まって汚染水おせんすい浄化じょうか、さらには1Fの安定化と廃止措置はいしそちという大きな仕事につながっている──そう考えると、自分たちの仕事が世の中に役立っていると思うことができ、やりがいを感じます。

オフの時間はどのように過ごしていますか。

 次の日があまり忙しそうでなければ、グループで軽く飲みに行くこともあります。メンバーは50代のベテランから20代まで、さまざまな世代の人がいますが、おたがいに意見が言いやすい雰囲気ふんいきなのはいいですね。

 家族は、本社のある横浜よこはまに住んでいます。土日が連休のときは金曜日の夜に自宅じたくに帰り、小学2年生になるむすめと遊ぶのが楽しみです。土曜日が仕事の場合は、日曜日にゴルフに行くこともあります。いわき市の中心部から車で30分ほどの場所にゴルフ場がいくつもあり、値段ねだんも関東にくらべると安いので、気軽に出かけることができてうれしいです。

プロフィール
池永いけなが 信之のぶゆきさん
  • 【出身地】福岡県福岡市ふくおかけんふくおかし
  • 【好物】ローストビーフ
  • 趣味しゅみ】ゴルフ
池永信之

1993年入社以来、原子力発電所設備の試運転一筋ひとすじ。女川原子力発電所2号機建設プラントをはじめ、浜岡はまおか柏崎刈羽かしわざきかりわ5、6号機、東通ひがしどおりなど、日本各地の原子力発電所で経験を積んできた。1カ所あたり1年半から2年ほど単身赴任ふにんをするので、たまの連休に自宅じたくに帰ってむすめさんと会うのが楽しみ

つとめ先

東芝とうしばプラントシステム株式会社

2004年に東芝とうしばプラント建設と東芝とうしばエンジニアリングが合併がっぺいして現社名となる。1923年に東芝とうしばプラント建設の前身となる三興電気事務所が創立そうりつ。電力システムや原子力システムなどの発電設備の設計、施工、試験調整・試運転のほか、各種産業生産設備、ビル、上下水道、情報通信、空港、道路、鉄道などのインフラや環境かんきょうに関わる設備の設計、施工、フィールドサービスなどを主に行っている。

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