2017年3月10日
秋吉 久美子 さん- 女優
高校までの青春時代を福島県いわき市で過ごした女優の秋吉久美子さん。数々の映画やドラマで活躍する一方、2009年9月には早稲田大学で公共経営修士を取得しています。公共経営学とは民間企業の経営手法を活用し、より良い行政の在り方を考えていく学問。この学びが「熱く感じて冷静に行動する」姿勢を育て、被災地との向き合い方に大きく影響していると言います。感情論に流されることなく、廃炉作業が進む福島第一原子力発電所の作業員のみなさまへの配慮とさらなる環境改善、福島の復興を願い続けています。
秋吉久美子さんからの応援メッセージ
「東北未来がんばっぺ大使」として福島の再生を支援
秋吉さん:
震災後は全国のたくさんの人がそれぞれのやり方で被災地の復興に向けたお手伝いをしています。私も消費者庁から「東北未来がんばっぺ大使」を拝命し、福島県産の野菜や魚、肉などの安全性を全国の方々にお伝えしてきました。
食品の出荷前には放射性セシウムの検査を厳格に行っていて、市場に出回る食品はみな安全なものばかりです。そのことを正しく伝えるためには「食べて助けよう」という思いやりの活動のみではなく、なぜ安心なのかという根拠をきちんと説明することが必要だと思いました。私が大使を務めることで、風評被害に苦しんでいる福島の方々の力になれるならという思いで、この役目をお引き受けしたのです。
大使の任期中は、シンポジウムの参加などたびたび福島を訪れました。地元の野菜や魚などもたくさんご馳走になりました。福島産は本当においしい。イチゴ農家の方を訪れた時は、収穫のお手伝いもさせてもらいました。それぞれの大変な状況の中でも、希望を持って前を向いて進んでいる方が大勢いらっしゃるんです。
東日本大震災復興イベント「福魂祭」も第5回までセレモニープロデューサーを務めさせていただきました。福魂祭のテーマは「鎮魂」「感謝」「再生」。亡くなられた人々へ鎮魂を捧げ、救済の手を差し伸べていただいた人々へ感謝し、絶対に福島を再生させるという決意のイベントです。共感してイベントに参加しました。アーティストによるコンサートは再生のシンボルであり、現地のみなさんとても楽しみにしています。私は鎮魂、感謝のセレモニーのプロデュースを心がけてきました。
私のセレモニープロデューサーのお役目は終わりましたが、復興はまだ終わっていません。東北大震災から6年経ち、復興イベントやNPOも過渡期です。今後は、被災地ゆえの集客に留まらず、東北人の品格、そして日本人の礼節を踏まえた復興イベントを続けることを心より期待しています。
廃炉作業の大変さに思いを馳せ、痛みを共有したい
秋吉さん:
復興に向けた活動にはソフトとハードという2つの側面があると思います。ソフト面は私が務めた東北未来がんばっぺ大使のように全国の人に正しい情報を伝えたり、地元の人に寄り添って応援していく活動です。
一方のハード面は道路・鉄道の整備や除染作業などインフラを整えるための活動です。この中で最も大変な作業が、福島第一原子力発電所の廃炉作業なのではないでしょうか。そこは6年間で改善されつつも厳しくて勤勉さが問われる「現場」なのだと思います。
作業員の皆さんは福島県の方が多いと聞きました。自分たちの生活の不安がある中、廃炉という大きな課題に向かって日々作業を続けているわけです。重要な作業に従事する大変さ、冬の寒さや夏の暑さに身を置く大変さ、現場で作業する人たちの苦労は計るに知れないものがあると思います。
私たちはソフト面から被災地の復興を支援することはできますが、ハード面の活動は作業員の方にお願いするしかありません。だとしたら、私たちに何ができるのか。一日一回でもいいから、廃炉に向けた作業に汗を流す現場の人の思いを感じ、感謝と労りの気持ちを持ち続ける。そうして痛みを共有することが、私なりの応援の仕方です。
その感謝の気持ちが現場の作業員の方に届き、作業員の方の苦労が報われるように、働く環境がこれからもいい方向に変わっていってほしい。食事時にはアツアツのご飯をお腹いっぱい食べて、寝る時はふかふかの布団でゆっくり休む。大変な作業に従事しているわけですから、しっかり英気を養う環境が必要なのです。
秋吉久美子さんの被災地支援活動
「人として正しいことをしたい」が私の支援活動の原点
秋吉さん:
私がさまざまな復興支援活動に取り組むようになったのは、発言者が必要だと思ったからです。東北の人は奥ゆかしいところがあります。私も青春時代を福島県いわき市で過ごしたので、東北人のそういう気質はよくわかります。言いたいことがあっても、ぐっと堪えて我慢してしまうようなところがあるのです。地元の人がなかなか言えないのなら、誰かが代わって発言しないといけない。これまでも、これからもその思いは変わりません。
それは愛郷心によるものと思われがちですが、実はちょっと違うのです。愛郷心はもちろんあって当然でしょう。でも、それ以上に大きいのが「人として正しいことをしたい」という思い。どこであれ、大変な状況の人がいれば、なんとかしなければと思うのが人の良心ではないですか。
昨年は熊本でも大きな地震がありました。世界では各地で紛争が続いています。もし愛郷心だけを活動の原点にしていたら、自分と関係のないところで起きたことには関心を持てないでしょう。どこで何が起きようと、思いはせる感受性が大事だと思います。6年前に発生した東日本大震災で、私を育ててくれた福島県が大変な状況に陥っているのを見て、その思いがより一層掻き立てられたというのが正直なところです。
人として正しいことをする。これからもこの思いを忘れずに、福島をはじめとする被災地の方々の気持ちに寄り添い、皆で共に復興、共に救済の歩みを進めていきましょう。
- プロフィール
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女優
秋吉久美子さん静岡県富士宮市生まれ。小学校から高校卒業までを福島県いわき市で暮らす。1974年公開の藤田敏八監督作品「赤ちょうちん」「妹」「バージンブルース」に主演し、女優として本格的に映画デビューを果たす。ブルーリボン賞主演女優賞、日本アカデミー賞優秀主演女優賞など受賞歴多数。2007年9月に早稲田大学大学院公共経営研究科専門職学位課程公共経営学専攻に入学。2009年9月に総代として修了し、公共経営修士を取得した。現在も映画、ドラマ、舞台、バラエティなどで幅広く活躍中。東北未来がんばっぺ大使、福魂祭のセレモニープロデューサー、福島、上三坂の歴史ある古民家を、地方創生の一環として、次世代につぐOJONCOなどの活動を通じ、被災地の復興支援に協力をしてきた。
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