1 FOR ALL JAPAN 廃炉のいま、あした

1Fを守る仲間たち

大川哲志さん 北條真二さん

2017年6月14日

INTERVIEW 31 1Fの仕事は万全の準備が必要 仕事の出来は準備で9割5分決まる

大川 哲志さん 大川おおかわ 哲志さとしさん
応用地質株式会社
エネルギー事業部 広野調査所
所長
北條 真二さん 北條ほうじょう 真二しんじさん
応用地質株式会社
エネルギー事業部 広野調査所
主任

 1Fの建物は大がかりなものが多いため、地盤じばんがしっかりしているかどうか、前もってしっかりと調べておく必要があります。今回お話をうかがったのは、1Fでの地質調査に加えて、地下水が流れる量の測定など、廃炉はいろに向けて重要な調査を行っている応用地質のお二人です。

震災しんさい前から構内で調査をしてきた
1Fにゆかりの深い会社

どのような仕事をされているのですか?

大川さん:

 私の会社では、1Fで大きく2つの仕事を行っています。1つは地質調査。地面深くあなる「ボーリング」によって地中の土やどろを取り出し、その地点の地質がどうなっているのかを分析ぶんせきしたり試験したりします。もう1つは、観測用の井戸いどって、地下水がどのくらい流れているのかを観測することです。そうした作業全体を管理するのが私の仕事です。

北條さん:

 私は現在、排水路はいすいろに流れる水の量を測っています。構内の4カ所で、1分あたりの流量を観測して、その結果を週に1回集計しています。

いつから1Fでお仕事をしているのですか。
大川 哲志さん

大川さん:

 私自身は2013年に初めて1Fに来たのですが、当社は震災しんさい前の1991年から1Fで仕事をしています。震災しんさいが発生したとき、当社の社員が10m盤とばれるエリアと、1、4号機うらの法面(斜面しゃめん)で調査をしていましたが、津波警報つなみけいほうが出たのですぐに避難ひなんしたと聞いています。そうしたえんもあって、震災しんさい後も1Fの廃炉はいろに向けて協力していこうという方針ほうしんが決められました。
 これまで1Fでは、タンク建設のための基礎きそ調査、凍土壁とうどへきの地質調査、凍土壁とうどへきの前後で地下水の状態を調べるための観測用井戸いどの設置などを行ってきました。多いときは、協力会社をふくめて40人が1F構内で作業をしていましたが、現在は調査が一段落だんらくしたので20人くらいになっています。

北條さん:

 私は、凍土壁とうどへきの工事計画に関係して2014年に初めて1Fに入りました。その後、2015年から正式に配属になっています。私の主な役割やくわりは、仕事を円滑えんかつに進め、調査結果を整理して報告することです。地質調査をしていたときは毎日1F構内に入っていましたが、今は排水量はいすいりょうのデータを集めるために週1回来ています。集まったデータは広野の事務所に運び、流量を確認かくにんしたり見やすいグラフにしたりしています。

同じ機械を使う作業であっても
ほかの現場と1Fとではちが

仕事を進める上で難しいのは、どういう点ですか。

北條さん:

 現場では防護服と全面マスクで作業をしなくてはならず、また重機や機械の音も大きいので、協力会社の方や関係者と対話したり情報交換こうかんするのが非常にむずかしいですね。以前からいっしょに仕事をしている方で、機械を操作そうさするオペレーターの方がいるのですが、普段ふだんは物静かな人なのに、構内に入ると人が変わったように大声で指示を出したりしています。それ位しないと言いたいことが伝わりませんし、それだけ注意が必要な現場なのです。

他の現場とのちがいはどう感じていますか。

大川さん:

 普通ふつうの現場よりもワンランクむずかしい現場だという印象です。ほかの現場を「普通ふつうの状態で緊張きんちょうしている」とするならば、1Fは「特殊とくしゅな状態の中で緊張きんちょうしている」現場といってよいでしょう。ほかの現場ならば、道具が足りないことに気づいたら、すぐに取りにもどればいいのですが、1Fではそういうことができません。構内に入る前から緊張きんちょうします。

北條さん:

 同じ機械を使うのであっても、ほかの現場と1F構内ではちがいますね。全面マスクをしながら機械の表示を見なくてならないので、最初はとまどいました。どんな見え方をするのか、精度が確保できるのという不安がありました。

そうしたむずかしい点に対して、どのような工夫をされていますか。
北條 真二さん

北條さん:

 現場でのコミュニケーションがむずかしいので、普段ふだんから協力会社や作業員の方とは、よく会話をするように心がけています。例えば、構内に入るときには一緒いっしょに行動をして、雑談まじりに仕事の内容についても確認かくにんします。普段ふだんから意思疎通そつうをしておけば、問題も起きにくいですし、何か問題が起きたときにもすぐに対処たいしょできます。

大川さん:

 現場でのコミュニケーションはもちろん、準備も万全にしなくてはいけません。ほかの現場で「準備が9割」とすれば、1Fは「準備が9割5分か、それ以上」で仕事の出来が決まります。それだけのことをして、初めて対応できる場所ですね。もちろん、事前のKY(危険きけん予知)訓練だけでなく、仕事が終わって事務所にもどってからの、いわば「アフターKY」も欠かせません。徹底てっていして打ち合わせをすることが大切です。

裏方うらかたの仕事だが、必要とされているのがうれしい

仕事でやりがいを感じるのは、どういうときですか。
大川 哲志さん,北條 真二さん

北條さん:

 私たちの仕事は地味な裏方うらかたです。目立ちませんが、だれかに必要とされていると感じたときには、やはりやりがいを感じます。以前お世話になった発注者の方から電話があって、「ちょっと教えてほしいんだけど」と相談を受けることがありますが、そんなときは役に立ててもらえたんだなと思えて、この仕事をやってよかったなと思います。同じようなことは、1Fでも感じています。

大川さん:

 私の所属する部署ぶしょは、柏崎かしわざきや東通の発電所でも仕事をいただいたことで経験を積み、技術をみがいてきました。いわば、原子力発電所に育ててもらった部署ぶしょでもあるので、その原子力発電所がこまっているときに手助けするのは恩返しだと思っています。ですから、入退域管理棟にゅうたいいきかんりとうに、私たちの会社の社章がかかげられているのはほこらしく感じます。
 また、目に見えない放射線ほうしゃせんに対して不安を持っている人が今も多い中、西日本で仕事をしていた北條さんのような人が、社内で手を挙げて率先して1Fに来てくれたのはうれしいですね。

休日はどのようなことをなさっていますか。
北條 真二さん

北條さん:

 広野町のアパートに住んでいて、平日は携帯けいたい電話の小さな画面でビデオを見るのが楽しみです。土曜日に仕事がないときは埼玉県にある自宅じたくに帰ります。上の子が幼稚園ようちえん、下の子は去年生まれたばかりで、かわいいざかりですから、なるべく一緒いっしょに過ごしたいですからね。自宅じたくに帰らないときは、ふとんをあらったり、掃除そうじをしたり。たまには気分転換てんかんでいわき市内まで出て、一人でお酒を飲んでカプセルホテルにまるということもします。もちろん、そのときも家族にはこまめに報告しますよ。

大川さん:

 休日はもっぱら一人で散歩をしています。いわき周辺の山には歩くのに適した道がたくさんあるので、地図も持たずに、1日に10キロから20キロは歩いてしまいます。もともと地質調査をする会社なので、社内には山歩きを好きな人が多いんです。私は鉄道も好きなので、よく乗り歩きもしています。

大川 哲志さん

大川おおかわ 哲志さとしさん

青森県八戸市出身。会社のある神奈川県に出張に出ていたら、さらにそこから1Fに出張となった。仕事の後や休日は、テレビでテニス、野球、相撲すもうなど、スポーツ番組を観戦している。

北條 真二さん

北條ほうじょう 真二しんじさん

東京都出身。H2エリアのタンク建設工事のために、2016年5月から1Fに派遣はけんされた。現在はいわき市内に住んでいる。

私たちの仕事は裏方うらかたで地味ですが、廃炉はいろに向けて働いているメンバーの一員だというほこりがあります。力を合わせて1日でも早い廃炉はいろを目指しましょう。

プロフィール
大川おおかわ 哲志さとしさん

東京生まれで、自宅じたくは千葉県。2013年に初めて1Fに来た。現在はいわき市内に住んでおり、普段ふだんは広野町にある事務所に通っている。昨年、体調をくずしてからは毎日歩くことを心がけている。

北條ほうじょう 真二しんじさん

出身は徳島県阿南市。1Fに初めて来たのは2014年。それまでは、仕事で関西、四国、九州と、西日本をまわっていた。海外にも、火力発電所建設の調査のために、数カ月ほど出張していたことがある。

お勤め先

応用地質株式会社

1957年設立。地質学、地球物理学、土木工学など、地球科学について広い知識と経験を持つ技術者の集まり。地盤じばんや地下水の性質、自然現象や災害の実態を調査・分析ぶんせきして、課題解決に向けて提案するなどの業務を行っている。

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