2019年6月5日
- 森 敬信さん
- 株式会社鳥藤本店
受託業務・浜鶴ユニットマネージャー
兼 営業課長
2019年4月、大熊町大川原地区の避難指示が解除されました。その大川原地区に、2016年9月にオープンしたのが、今回ご紹介する大熊食堂です。当初は、隣接する東京電力の社員寮の食堂としてのみ使われていましたが、現在はランチタイムに一般の方々も利用できるようになり、作業員の方々や地元に戻った住民の方々の利用も増え、にぎわいのある場所になりつつあります。
実家の近くにある鳥藤本店に転職
入社してから復興の意識が強くなった
鳥藤本店さんは、震災前からも1Fにかかわってきたのですね。
震災前は1F構内に食堂があって、鳥藤本店が運営していました。私自身は震災後の入社ですが、当時のことは同僚からよく聞いています。
地震が起きた直後、従業員はすぐに免震棟に避難したそうです。その夜、当時の1F構内食堂の店長は、停電で真っ暗な食堂に行き、従業員全員の荷物を集めて免震棟に戻ってきたと聞いています。構外に避難した少し後に津波が来て、その後、原子炉建屋が水素爆発して、せっぱつまった状況だったとのことです。
森さんは、どうしてこの仕事を選んだのですか。
震災当時は千葉にいて、まったく違う仕事をしていました。ただ、実家がいわき市南部にあり、帰ってくる必要が出てきたので、近くでできる仕事を探していたのです。最初は、普通の給食関係の会社だと思っていたのですが、面接のときになって復興の最前線の仕事場だと知りました。
ですから、入社当時は復興のために仕事をしたいという意識は、あまり強くなかったのです。しかし、実家こそ無事だったものの海岸沿いは津波の被害に遭ってますし、南相馬市にあった祖父母の家は津波で流されてしまいました。ですから、自分も復興には無関係でいられないという気持ちが心の奥にあったのでしょう。入社してからはずいぶん意識するようになりました。
震災後にはどのような仕事をなさっていたのですか。
鳥藤本店として、震災直後には避難所で地元の方々に炊き出しをしたと聞いています。その後、Jヴィレッジが1F復旧工事の拠点となり、その中に新広野単身寮というプレハブ住宅ができて600人から700人が住むようになってからは、そこの食堂を運営するようになりました。
また、富岡町にあった本社は使えなくなっていたので、いわき市四倉町の営業所で弁当を作って、1Fに送ったりしていました。
大熊食堂が避難区域内だったことで
いわきからの食材の運搬が大変だった
そして、2016年9月に大熊食堂がオープンしました。
朝夕は、東京電力の社員寮の給食施設として使われています。2017年4月からは、昼に一般の方々も利用できるようにしていますが、当時は居住制限区域で一般の方がなかなか来れない場所でした。ですから、お客さまは少ないだろうと思ったのですが、作業員の方々や一時帰宅した地元の方々に、予想より多く来ていただきました。
さらに、2019年4月の避難指示解除後は、地元の方の利用が増えてきて、昼だけで1日平均140人に利用いただいています。これまで見なかったような小さいお子さんも来店されるようになり、普通の場所に近づいてきたんだなという印象を受けています。とはいえ、全体的に若い人が少なく、年配の方が多いのは事実です。
どういうときに、やりがいを感じますか。
やはり、お客さまに「おいしい!」「また来るよ!」と言っていただいたときですね。少し前までは避難区域内であり、近くにはコンビニもありませんでしたから、食べるものは冷たいものばかりでした。そんなときに、できたての温かいものを提供できるようになって、お客さまにも大変喜んでいただけました。
私自身は、仕事がら、いわき市内にいることが多いのですが、大熊食堂に顔を出したときに、従業員とお客さまが楽しそうに会話しているのを見ると、私のいないところでうまくやってくれているなと思い、うれしく感じます。
ご苦労なさったことも多いと思います。
最初のうちは、食材を納品してくれる業者さんを集めるのが大変でした。周囲にはほかに食堂のような施設はありませんから、大熊食堂だけのために、50kmも離れたいわき市内から運ぶというのは、採算がとれないのだそうです。それでも、以前からお付き合いのある業者さんから、「毎日は無理だけど、週に1、2回なら大丈夫」といわれて、在庫が確保できるようになりました。そういった大熊町ならではの事情もあり、予約の締め切りなど期日の面で未だに利用者の方々にはご不便をおかけしておりますが、そこはご理解いただけると助かります。
地元の人が帰ってきてくれて
大熊食堂が交流の場となればいい
メニューで工夫している点はありますか。
たくさんのおかずが食べられる
「おおくま御膳」
一番人気のメニュー「まんぷく定食」
お客さまが増えたことに合わせて、4月から新しいメニューをはじめました。一番の人気メニューは、900円の「まんぷく定食」です。若い人や体を動かす仕事をしている作業員の方向けに、スタミナ焼きや揚げ物をおかずにしたボリュームたっぷりの定食です。
年配の方向けとしては、松花堂弁当のような「おおくま御膳」を1200円ではじめました。少しぜいたくな気分で、たくさんのおかずが食べられるように工夫しています。そのほか、週替わり定食A、Bやラーメンなども用意しています。
今後は、どのようなことを期待していますか。
大川原地区の避難指示が解除となり、大熊町役場も再開され、公営住宅もできあがりました。地元の方が帰ってきてくれて、町が栄え、お客さまも増えてくることを期待しています。そのときに、大熊食堂が、地元の人や作業員の方々の交流の場となればいいなと思っています。
ところで、休日はどのようなことをしていますか。
私はカメラが趣味で、休みになると風景写真を撮りにあちこちに出かけます。先日は、栃木県まで足を延ばして、あしかがフラワーパークに行ってきました。また、空気が澄んでいる日に、小名浜の海沿いで夜中に天の川を撮ってきました。カメラはフルサイズ一眼レフで、ポップやチラシの写真も私自身で撮っています。メニューの写真は、うまく撮るのが難しいのですが、だいぶ慣れてきました。
森敬信さん
いわき市出身。学校を卒業後、東京や千葉で仕事をしていたが、数年前に実家に戻ることになり、鳥藤本店に転職。家族は妻と小学生の子どもとの3人。お酒好きに思われることが多いが、ほとんど飲まない。好きな食べものは鶏肉だったが、最近は魚のおいしさに目覚めた。
廃炉作業は大変なお仕事だと思いますが、食事面でお手伝いをしていきます。ぜひ、温かくておいしい食事を食べにきてください。
- プロフィール
- 森 敬信さん
いわき市出身。学校を卒業後、東京や千葉で仕事をしていたが、数年前に実家に戻ることになり、鳥藤本店に転職。家族は妻と小学生の子どもとの3人。お酒好きに思われることが多いが、ほとんど飲まない。好きな食べものは鶏肉だったが、最近は魚のおいしさに目覚めた。
- 大熊食堂
【所在地】大熊町大字大川原字南平911
【連絡先】070-2016-5969
【営業時間】一般のお客さま:11時30分~14時(土曜日・日曜日・祝日は休業)
- お勤め先
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株式会社鳥藤本店
事業所の給食や寮の管理、総菜製造販売をはじめ、現在は「浜鶏」ブランドでラーメン店やお土産用ラーメンも販売中。1Fとは、発電所の建設中に建設事務所の食事を提供することから、付き合いがはじまった。本社があった富岡町が避難区域となり、いわき市四倉町の営業所を中心に業務を行っている。