2020年11月25日
- 池田 幹彦さん
- 東京パワーテクノロジー株式会社
原子力事業部 福島原子力事業所
環境化学部 環境化学第三グループマネージャー
- 松本 真由子さん
- 東京パワーテクノロジー株式会社
原子力事業部 福島原子力事業所
環境化学部 環境化学第二グループ
福島第一原子力発電所では、年間約8万件の化学分析が行われています。これは震災前の約16倍に当たる件数です。廃炉に向けて前進するには、今後、さらに難易度の高いデブリの分析にも取り組まなければなりません。こうした中で活躍しているのが、化学分析業務の正確性と効率性を高める廃炉作業に特化させたメガネ型のデジタル端末「スマートグラス」です。今回はスマートグラスの開発に携わった東京パワーテクノロジーのお二人に話をうかがいました。
正確性と効率化のために
作業のシステム化を検討
お二人はどんなお仕事をされているのでしょうか。
池田さん:
私はずっと分析員として化学分析の業務を担当し、福島第一原子力発電所には7年前に異動してきました。担当は、放射能濃度や水質の分析です。
松本さん:
2019年4月に新卒で入社しました。その年の11月から化学分析業務を担当し、原子力発電所の周辺の海水分析を行っています。
化学分析業務とは具体的にどんなことをするのでしょうか。
池田さん:
まず、多核種除去設備などで浄化処理した処理水や建屋内に溜まっている水、発電所構内地下水、発電所周辺の海水などから試料を採取します。その件数は震災前の約16倍の年間約8万件にものぼります。
分析計画に基づいて採取した試料は、分析員の手で分析します。試料を測定して濃度を計算し、測定値をデータベースに入力して、グラフを作成します。入力した分析結果を報告書にまとめ、廃炉を進める上での情報として活用するとともに、毎日ホームページにデータを公開しています。
松本さん:
私たち分析員の仕事は、廃炉への工程を進める上で欠かせないもので、誤ったデータを発信することは避けなければなりません。それだけに緊張感を持って仕事に臨んでいます。
廃炉作業に特化させたスマートグラスを開発するにいたった背景を教えてください。
池田さん:
これまでの化学分析作業では、年間約80万枚ものチェックシートを作成し、集計業務には表計算ソフトを使用していました。手入力、転記、確認という作業を、当然のようにアナログで行っていましたが、データの入力や転記、確認などのデータ処理が大きな負担になっていました。
今後、廃炉の進捗に伴い、新たな分析項目や試料採取点の追加、難易度の高いデブリの分析などが予想される中で、正確性の向上と作業の効率化が求められていました。
スマートグラスで
作業時間を3分の1に短縮
なぜスマートグラスだったのでしょうか。
池田さん:
システム化について協力を求められたのは4年前です。難しかったのはホワイトボードやチェックシートに記入していた作業を自動化することでした。最初はタブレットを使用して実施することで提案を受けたのですが、結局両手がふさがってしまい、作業を効率化することにはつながりませんでした。
そんな時にスマートグラスを分析員の情報端末とし、システム化する提案を受けました。現場での分析作業経験者として「これは使えるのでは」と直感的に考えましたが、市販のものは見るだけで情報を入力することはできません。このため、分析員の目線で、必要な機能を集約し、市販のものに改良を加えていただいたものが、今のスマートグラスです。
どんな改良を行ったのでしょうか。
池田さん:
最終的に、QRコードを読み取れるカメラが付いているスマートグラスに、映像送信機能、ヘッドフォン、マイク、フェイスシールドを追加して、グラスを上下に動かすための装置を付けた形となりました。
このスマートグラスを使って、試料に貼られたラベルのQRコードを読み取り、採取日時を読み上げると、データ評価室にデータが送信され、ダブルチェックで一致すると自動でシステムに登録されます。また、これまで手入力していた測定条件や測定値も自動で収集され、入力値を目視で確認して音声入力するだけで記録されます。
これまで大きな負担になっていた作業が自動化されたことで、年間80万枚ほど必要だったチェックシートが不要となるなど、データ処理にかかる時間は3分の1程度に短縮されて、その分の時間を分析や報告に使えるようになりました。
松本さん:
学生時代は化学分析をしていたのですが、最後のところでミスに気づいて立ち戻ってやり直すことがよくありました。そういう時には「もう化学分析はやりたくない」と思ったりもしたのですが、スマートグラスではトレンドグラフが提示され、異常にすぐ気づけるので安心して作業が続けられます。本当に感激しました。
福島の復興に
分析データで貢献していく
どんなところに仕事のやりがいを感じますか。
池田さん:
化学分析のデータは、廃炉に向けたステップを踏むために大切です。震災前は完全な裏方でしたが、今は大きな関心が寄せられています。自分の仕事が福島の復興につながっていると思うと大きなやりがいを感じます。
松本さん:
化学分析という仕事を通して、廃炉に向けての作業のお手伝いができていると感じています。そのためにも誤ったデータを発信しないことを心がけています。
周りの人たちが優しくて大変良い職場ですが、大変な作業でもあります。防護服の着用が必要で動きづらく、特に夏場は暑くて苦しくなることがありました。毎日ヘトヘトで、部屋にたどり着くとすぐ寝てしまうこともありました。
しかし、地元の友人たちから「すごい仕事をしているね」「ありがとう」と言われることも多いので、また頑張ることができます。
福島に対する想いもありますよね。
松本さん:
私は隣の栃木の出身なのですが、大学は福島の大学に進学しました。もともと父が福島第一原子力発電所で働いていて、父のように社会に貢献したいと考えて、この会社に入社しました。
池田さん:
今年3月には常磐線も全線で運転を再開しました。福島第一原子力発電所の安全性を高めていかないと、まだまだ地元の復興が進みません。そのために少しでも役に立ちたいという使命感を持っています。
さらに意識の向上を図って
ワンチームで前進したい
仕事の後や休日などはどう過ごしているのでしょうか。
松本さん:
平日は同期とゲームに没頭し、週末は釣りやスノーボードといったアウトドアを楽しんでいます。今はいわき市に住んでいるのですが、海があって気候が穏やかで過ごしやすいところです。唐揚げやマグロが好きで、おいしいお店を探して楽しんでいます。
池田さん:
私もいわき市に住んでいますが、休日はゴルフに行ったり、家でのんびりしたりしています。福島には果物や山菜といった山の幸も豊富にあります。地場産の食材をつまみにビールや焼酎を飲むのが一日の楽しみですね。
最後に一緒に働く仲間に向けたメッセージをお願いします。
松本さん:
福島の復興には廃炉作業が安全に行われることが必要不可欠となっており、一人の不安全行動により廃炉作業全体に影響を及ぼすこともありますので、関係者全員が安全第一で作業に取り組んでいきましょう。
池田さん:
福島第一原子力発電所には多くの人が働いています。廃炉を進めるためには、作業の一つひとつを安全安心に行わなければなりません。さらに意識の向上を図ってワンチームで日々の作業にあたっていきたいですね。
池田 幹彦さん
入社26年目。福島第一原子力発電所に7年前に着任以来、一貫して化学分析業務に取り組む。担当は放射能濃度分析や水質分析。いわき市に住んでおり、好きな食べ物はカツオ。
松本 真由子さん
2019年4月に新卒で入社。同年11月から化学分析業務に携わる。福島第一原子力発電所周辺の海水の分析を担当している。いわき市在住で、週末はアウトドア活動を楽しみ、唐揚げやマグロが好物。
化学分析業務のデータは廃炉に向けて確実に前進するための重要な情報です。スマートグラスを使って正確性と効率性を高めて、これからも正確なデータの発信に取り組んでいきます。
- プロフィール
- 池田 幹彦さん
入社26年目。福島第一原子力発電所に7年前に着任以来、一貫して化学分析業務に取り組む。担当は放射能濃度分析や水質分析。いわき市に住んでおり、好きな食べ物はカツオ。
- 松本 真由子さん
2019年4月に新卒で入社。同年11月から化学分析業務に携わる。福島第一原子力発電所周辺の海水の分析を担当している。いわき市在住で、週末はアウトドア活動を楽しみ、唐揚げやマグロが好物。
- お勤め先
-
東京パワーテクノロジー株式会社
2013年7月に東電環境エンジニアリング株式会社、東電工業株式会社および尾瀬林業株式会社の3社が経営統合して発足。電力施設の調査・設計・建設・保守、環境調査測定、放射性物質の管理・除染などを行う。