2021年8月31日
- 田嶋 直樹さん
- 東芝エネルギーシステムズ株式会社
エネルギーシステム技術開発センター シニアエキスパート
- 大村 恒雄さん
- 東芝エネルギーシステムズ株式会社
エネルギーシステム技術開発センター シニアマネージャー
東日本大震災の津波によって、1Fの建屋内では海水を含む放射性物質で汚染された水が大量に発生しました。この汚染水から、セシウムとストロンチウムという放射性核種を効率よく取り除く吸着剤を開発した方々が、令和3年度の全国発明表彰で「発明賞」を受賞しました。この吸着剤は、すでに1Fで使用されており、汚染水の処理に大きく貢献しています。今回は、その開発を行ったお二人にお話をうかがいました。
吸着剤に必要とされるのは
短い時間で大量の処理ができること
まず、この吸着剤について簡単に教えてください。
田嶋さん:
震災直後から、当社ではサリー(SARRY™)という装置を使って、汚染水から放射性核種を取り除いてきました。この装置は簡単にいうと、吸着剤の入った筒に汚染水を上から入れることで、放射性核種が吸着剤に吸い取られ、処理された水が下に出てくるという仕組みです。当初は、セシウムを取り除くことが中心でしたが、さらに被ばく量を減らすために、セシウムとストロンチウムを同時にとるシステムが求められるようになりました。そこで、新しい吸着剤の開発を進めることになったのです。
大村さん:
田嶋たちのグループが、吸着剤に使えそうな材料を選んで試験をして、私たちのグループが試験結果を使って吸着剤の運用を解析するという分担でした。
どのような点に苦労なさったのでしょうか。
田嶋さん:
吸着剤の技術は以前からあったものですが、1Fの場合、海水が混じっているのが問題でした。海水にはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどのイオンが含まれているため、そこからセシウムやストロンチウムを取り除くのは簡単ではありません。どんな素材を使えばよいか、膨大な数の候補の中から絞り込んで、時間と人数をかけて選ぶのは大変な作業でした。
大村さん:
例えば、セシウムやストロンチウムを吸着する量が多くても、そのスピードが遅くては実際には使えません。1Fで発生した大量の汚染水を、短い時間で処理できる吸着剤を探さなくてはなりませんでした。なかなか思うような結果が出なくて苦労も続きました。
全面マスクが必要だった真夏の1Fでは
「こんなに汗が出るんだ」とびっくり
そのご苦労が報われて発明賞を受賞しました。
田嶋さん:
研究論文を調べるだけでなく、吸着剤のメーカーや社外の研究所などにも相談をしました。しかし、相談した相手も経験がないことなので、なかなか情報が得られません。それでも、そんな中からヒントや情報を積み重ね、社内の人たちの知恵を集めて、たくさん人たちの協力があって初めて開発できたものだと思っています。
大村さん:
吸着剤の素材だけでなく、大きさにも工夫があります。細かいパウダーの状態にすると、なかなか水が流れないだけでなく、処理された水と一緒に流れ出てしまいます。薬の顆粒くらいの大きさにしたことも、今回の発明のポイントです。
1Fにはよくいらっしゃるのですか。
田嶋さん:
2014年から2017年くらいには、よく行っていました。最初に行ったときは、構内に入るだけで全面マスクが必要でした。真夏に水がしみこまないような服を着て作業をしたのですが、「人間って、こんなに汗が出るんだ!」と自分でも驚いたほどです。当時は、東芝の社員専用バスがいわき駅前から出ており、私は夜中の2時発の一番早いバスに乗って4時に1F構内で朝礼。5時半から作業をはじめて、12時に終わるという勤務体系でした。
社会貢献につながることが
仕事をするうえでの喜び
この仕事をやってよかったと感じるのは、どういうときでしょうか。
田嶋さん:
汚染水の処理は、1Fだけでなく日本の大きな課題といえます。そんな課題の解決に貢献できていると感じるのがやりがいです。
大村さん:
私たちが納めた汚染水処理の装置が、トラブルなくきちんと稼働しているのが一番うれしいですね。それが結果的に社会貢献につながり、日本のためになっていると考えると、この仕事をやってよかったと思います。
ところで、仕事の息抜きや趣味を教えてください。
大村さん:
スポーツ観戦と旅行です。以前はバスケットボールをしていたのですが、今は野球やサッカーを見て楽しんでいます。新型コロナ前は月に2、3回球場に足を運んでいたのですが、現在はもっぱらテレビ観戦です。また、旅行の一番の楽しみは、旅先で味わう地酒と郷土料理ですね。温泉も好きです。
田嶋さん:
私も、国内海外問わず、旅先で食事をするのが好きなのですが、最近は新型コロナのために遠出が難しくなってしまいました。食事は、香辛料が効いたエスニック料理が好みで、インド料理も好きですし、東南アジアの料理でよく使うパクチーも大好きです。
田嶋 直樹さん
1990年入社。兵庫県出身。もともとは光源開発や光化学反応に関わる業務をしていた、原子力化学関係の部署に異動して2年後に震災が起き、それ以後は1Fに関する仕事が大きな割合を占めている。5年に1回ほど大きな家族旅行をしているが、最近は新型コロナで行けなくて残念に感じている。
大村 恒雄さん
福岡県出身。1998年入社。原子力化学関係の開発に携わっていた。震災後は汚染水の処理に取り組んでいる。野球やサッカーなどのスポーツ観戦が好きで、野球のひいきチームは地元のソフトバンクホークス。
すぐには解決できない難しい点もありますが、今後も研究開発を進めて貢献していきます。力を合わせて廃炉を進めましょう。
- プロフィール
- 田嶋 直樹さん
1990年入社。兵庫県出身。もともとは光源開発や光化学反応に関わる業務をしていた、原子力化学関係の部署に異動して2年後に震災が起き、それ以後は1Fに関する仕事が大きな割合を占めている。5年に1回ほど大きな家族旅行をしているが、最近は新型コロナで行けなくて残念に感じている。
- 大村 恒雄さん
福岡県出身。1998年入社。原子力化学関係の開発に携わっていた。震災後は汚染水の処理に取り組んでいる。野球やサッカーなどのスポーツ観戦が好きで、野球のひいきチームは地元のソフトバンクホークス。
- お勤め先
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東芝エネルギーシステムズ株式会社
原子力、火力などのほか、再生可能エネルギー、電力流通、水素エネルギーなどのシステムを手がける会社として、2017年に株式会社東芝から分社して発足した。