2016年3月10日
- 故:
田部井 淳子 さん - 登山家
世界最高峰のエベレストに、女性として世界初の登頂に成功した登山家の田部井淳子さん。小学4年生の時に担任の先生に山へ連れて行ってもらったことが登山の原点だそうです。そんな田部井さんの出身は福島県三春町。思い出深い故郷・福島県で大きな被害が起きた福島第一原子力発電所への関心は人一倍強い。「毎日大変な作業と向き合う廃炉作業員の苦労に思いを馳せ、その状況を見守り続けることが私たちの務め」と話す田部井さん。廃炉作業員への感謝を忘れず、心からのエールを送り続けています。
田部井さんからの応援メッセージ
一人ひとりの力は小さくても、仲間が集まれば大きな力になる
田部井さん:
復興には長い時間がかかります。その一方で、こうしている間にも福島第一原子力発電所では廃炉に向けた作業が着々と進められています。
廃炉作業は30年、40年と続く長い道のり。大きなことに立ち向かうと、自分のしている一つひとつの作業が小さなことに思えることがあるかもしれません。それは登山も同じです。高くそびえる頂上を仰ぎ見ると、ゴールははるか遠くに思えますが、そこにたどり着くには仲間と力を合わせ、一歩一歩進んでいくしかない。何か大きなことを成し遂げるためにはチームの力が欠かせないのです。私は登山を通じてそのことを学びました。
チーム一丸となって、日々の積み重ねを繰り返すことで、見えなかったものがだんだん見えてくる。一人の力は小さくても、力を合わせれば、大きな力になるのです。
エベレストに登った時は、隊員は全部で15名いました。荷物は全部で15トン。それを麓から運ぶため、600名以上の現地の人にも協力してもらいました。そのほかにも、資金面でサポートしてくれた企業や個人、登山許可を取ったり、登山計画を立てるために協力してくれた方々も大勢います。でも、頂上に立つのはほんの数分の出来事。このために大勢の人の力を借りて、準備のために1400日もの時間を費やしたのです。
頂上に立つメンバーに私が選ばれたため、私の名前が大きく取り上げられましたが、エベレスト登頂は「エベレスト日本女子登山隊」のメンバー全員で成し遂げた仕事です。昔も今も私はそう言い続けています。
廃炉作業員に心からエールを送り、長く続く道のりを見守り続ける
田部井さん:
廃炉に向けた作業は日々困難の連続だと思います。廃炉作業員の方には大変感謝しています。今も大変な作業と向き合い、必死に汗を流している人がいる。このことは決して忘れてはならないと思います。私たちはそれを見守ることしかできませんが、心からエールを送り続けていくことが大切なのではないでしょうか。
そのためにも作業の現場が今どうなっているのか。可能な限り、私たちに情報を公開しほしい。それをしっかりと受け止め、子供や孫たちに伝えていくのが私たちの務めだと思います。
福島は豊かな自然に恵まれた美しい土地です。いい温泉やおいしいものも各地にたくさんあります。作業員の方は休日にはぜひ県内を巡って、福島の自然と食べ物を満喫してください。それが明日の仕事の活力になれば、福島県出身者としてこれほどうれしいことはありません。
田部井さんの被災地支援活動
自分に何ができるかを考え、自然に親しむハイキングを企画
田部井さん:
震災直後に、生まれ育った故郷の福島県が大変な状況になっていることを知り、私に何ができるかを真剣に考えました。いても立ってもいられない――。そんな気持ちに突き動かされ、山の仲間とともに寝袋や毛布、手袋など登山の道具を集めて避難所に届けました。その時、避難所では「一日何もすることがなく、すごくつらい」という話を聞き、少しでも気晴らしになればと思い、私の登山経験を生かしてハイキングを企画しました。
それが震災3カ月後の6月のことです。会津若松の芦ノ牧温泉に避難していた福島県楢葉町の5人を誘って、裏磐梯の五色沼に行きました。最初のうちは会話も弾まず沈んだ空気だったのですが、五色沼に着いたとたん「すごくきれい」「磐梯山は裏から見ると形が違うね」など目のあたりにする風景に大喜び。「ああ、自然の中にお連れしてよかったな」と思いました。
この活動は広がりを見せ、被災地の復興を支援する「東北応援プロジェクト」の一環として今も継続しています。避難場所はさまざまなので、今回は大熊町のみなさん、次回は富岡町のみなさんといった具合に町ごとに毎月ハイキングを企画し、すでに58回を迎えました。
また、被災した東北の高校生たちを富士登山に招待する「被災した東北の高校生を日本一の富士山へ」という活動も毎年行っています。日本一の富士山に登ることで、前に進む「勇気」と「元気」を持ってもらいたいという願いを込めた活動です。
また、実際に福島を訪れ、現地に泊まり観光し、おいしいものをたくさん食べてお土産もたくさん買って帰る。こういう活動も立派な復興支援の1つです。多くの人に東北の良さ、福島の素晴らしさをこれからも伝えていきたいと思います。
“今も大変な作業と向き合い、必死に汗を流している人がいる。
このことは決して忘れてはならないと思います。”
- プロフィール
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登山家
故:田部井 淳子さん1975年に世界最高峰エベレストの登頂に成功し、1992年には7大陸最高峰登頂を達成。ともに女性として世界初の偉業である。東日本大震災後は、その直後から被災地支援を行い、自身が所属するNPO法人日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト内に東北の復興をサポートする「東北応援プロジェクト」を発足。東北の魅力を全国に発信するとともに、福島県の避難している方々を元気づけるためのハイキングなどを定期的に行っている。
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