1 FOR ALL JAPAN 廃炉のいま、あした

2018年3月7日

応援メッセージ07 世界の人たちに福島の「今」の姿を見てもらいたい

鈴木尚広さん鈴木すずき尚広たかひろ さん
スポーツコメンテーター
元プロ野球選手、読売巨人軍(1996-2016在籍ざいせき

1996年のドラフトで読売ジャイアンツ(巨人)に指名されて以来、20年にわたって巨人軍一筋ひとすじ活躍かつやくしてきた鈴木尚広さんは、福島県相馬市の出身。現役時代は足のスペシャリストとして知られ、代走での盗塁とうるい数の日本記録をもっています。現役引退後は、「生まれ育った福島県に恩返しをしたい」という気持ちのもと、子どもたちの野球教室を開いたり、福島県の健康大使として健康関連イベントに参加して健康の大切さをびかけています。

鈴木尚広さんからの応援メッセージ

震災しんさいでも変わらない福島県人の人情がうれしかった
鈴木尚広さん

鈴木さん:

 私が生まれた福島県相馬市は、福島県北部の海沿いにある町です。山と川と海に囲まれ、小さいころから自然に親しんで育ってきました。2011年に震災しんさいが起きたときは、オープン戦で広島にいました。広島球場のロッカールームで、相馬に10mもの津波つなみが来るというニュース速報を聞いて呆然ぼうぜんとしたことを覚えています。

 幸い家族はみな無事であるとわかりましたが、その後も福島第一原子力発電所の事故が起き、大きな余震よしんも続いているという報道を聞くたびに、居ても立ってもいられませんでした。ようやく帰ることができたのは、震災しんさいから2週間後のこと。おさないころから親しんだ町が津波つなみで変わり果ててしまい、くなった知人がいることも聞きました。やはり、いくらニュースで聞いていても、現場で見るものとはちがうと実感しました。4月にはシーズンが始まりましたが、しばらくは野球どころではなかったというのが正直なところです。

 それでもうれしかったのは、あたたかい人情とのんびりした雰囲気ふんいきに包まれた福島の県民性が変わらなかったことです。印象的だったのは、震災しんさい直後に避難所ひなんじょを回って、みなさんに声かけをしたとき、震災しんさいで何もかも失って落ちんでいる方々が、私の顔を見ると「わざわざ来てくれてありがとう」と言ってくれるのです。被災ひさいした方々をはげますつもりで行ったのですが、逆にはげまされてしまいました。

 また、福島県で試合をすると、ほかにスター選手がたくさんいるのに、私が出るとものすごい歓声かんせいがあがるのです。これには、めちゃくちゃ緊張きんちょうしましたが、やはり地元というのはありがたいものだと感じました。

チームのみんなが同じ方向を目指すことでいい結果が出る

大福島県小野町で行われた「小町ふれあいフェスタ2017」 福島県小野町で行われた「小町ふれあいフェスタ2017」

鈴木さん:

 野球は組織で動くスポーツです。確かにチーム内にはライバルがいて競争の社会ではありますが、チームが勝って日本一を目指すという方向は一致いっちしています。みんなが使命感を持ち、力を合わせて目標に向かうことができれば、必ずいい結果が出ます。

 また、野球というスポーツは、一般いっぱんの方々にははなやかな面ばかりが見えているかもしれませんが、毎日の地道な練習や準備が本当に大切です。1年に公式戦だけで143試合もある中で、1年中いい体調を維持いじしていくためには、そうした目に見えない努力が必要なのです。

 よくスポーツは「心技体」が大切だといわれますが、野球では「体」が一番大切だと思います。体調を整えることで、初めて「心」も「技」も充実じゅうじつできるからです。その体調を常にいい状態に保ち、見えないところで準備をおこたらないのがプロといえるでしょう。

 そうした点は、廃炉はいろに向けた作業をしている方々にも共通しているのではないかと思います。廃炉はいろは30年、40年かかる長期的な作業だと聞いています。今日何か作業したからといって、すぐに目に見える結果が出ることは少ないことでしょう。でも、チームの全員が力を合わせて作業を続けることで、一歩一歩目標に近づいていきます。ぜひとも、地道な作業が、大きな役割を担っているというほこりを持っていただきたいと思っています。体力的にも精神的にも大変な作業でしょうが、体調を整えて無理をしないで続けていってください。私たちは、いつもみなさんのことを気にかけています。

 福島県には数多くの温泉おんせんがありますので、つかれたらぜひのんびりつかってください。また、福島県の日本酒は、5年連続して金賞受賞数が全国1位です。ぜひ、おいしいお酒と食も楽しんでいただければと思います。

鈴木尚広さんの被災地支援活動ひさいちしえんかつどう

2020年に野球・ソフトが福島で行われるのが楽しみ
鈴木尚広さん

鈴木さん:

震災しんさい直後は、母校の小中学校が避難所ひなんじょになっていたこともあり、自分ができることとして、避難所ひなんじょを回ってみなさんに声かけをして回りました。とはいえ、現役時代は、なかなか時間がとれず、思うように福島での活動ができませんでした。今は現役を退いて、やっと福島に恩返しできるようになったという気持ちでいます。

 2017年には福島県の健康大使「ふくしま健民プロジェクト大使」に任命されたこともあり、県内各地で健康関連のイベントを行ったり、将来しょうらいになう子どもたちに野球教室を開いたりしています。

 2018年1月20日には、巨人時代の先輩せんぱいで現在はアメリカのメジャーリーグで活躍かつやくしている上原浩治投手に声をかけていただき、福島市で野球教室を開きました。メジャーリーガーが目の前で指導してくれるというので、子どもたちが目をかがやかせながら、じっと話に聞き入っていたのが印象的でした。やはり、実際にれ合って、体験してもらうことが大事だと改めて感じました。

 スポーツというと、楽しみはなんといっても2020年。福島市の県営あづま球場で野球とソフトボールの開幕戦かいまくせんが行われることが決まりました。私が青春時代をまっとうした球場で開催かいさいされるというのは、私自身にとっても楽しみです。

 そして、これを機会に福島の「今」を世界各国に見てもらいたいと思います。復興したと感じてもらえるのか、まだまだだねと言われるのかはわかりませんが、どちらにしても現地の様子を多くの人に見て感じてもらい、多くの人に伝えてもらいたいのです。野球というスポーツを通じて、「福島ってよかったよね。また行ってみよう。お酒や食べものがおいしかった」という思いを感じてもらえれば、最高にうれしいですね。

皆さんの力が福島の支えになる。鈴木尚広さん

鈴木尚広さん
プロフィール
スポーツコメンテーター
元プロ野球選手、読売巨人軍(1996-2016在籍ざいせき
鈴木尚広さん

福島県相馬市出身。幼稚園ようちえんのころから野球をはじめ、小学生に入学すると同時に市内のリトルリーグのチームに入り、1年生から試合に出場していた。相馬高校卒業後、読売ジャイアンツにドラフト4位で入団。内野手、外野手として活躍かつやくしたが、特に足のスペシャリストとして通算盗塁数とうるいすう228を記録。中でも代走での通算132盗塁とうるいという数字は、日本記録としてかがやいている。

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