2016年3月10日
箭内 道彦 さん- クリエイティブディレクター
テレビCMや広告キャンペーンなどを数多く手がけるクリエイティブディレクターの箭内道彦さん。2010年に福島県出身のミュージシャン4名で結成された「猪苗代湖ズ」のギタリストでもあり、「I love you & I need you ふくしま」という曲には福島県郡山市出身の箭内さんの“福島への愛”が込められています。さらに箭内さんは、さまざまな支援活動を展開し、事故後の福島第一原子力発電所の作業現場に足を運んだこともあるとのこと。廃炉に向けた作業が、いまこの時も続けられていることを忘れてはならない、という思いが箭内さんの活動が続く原点になっています。
箭内さんからの応援メッセージ
事故後の福島第一原発を訪れ、作業の大変さを痛感しました
箭内さん:
原発事故後は、さまざまな立場の人がさまざまな視点から日本のエネルギー政策について意見を述べ合いました。事故直後に激しく意見が対立する風潮に接した時、このままでは日本がバラバラになってしまうと思いました。
意見はどうあれ、いまこの時も廃炉作業は続いているわけです。この作業はどんなに時間がかかってもやり遂げなければならない。原発に対する思いや考えはさまざまでも、このことに反対する人はいないでしょう。誰もが同じ気持ちを持てる場所――。それが廃炉作業の現場なのではないでしょうか。そこで働く作業員の方々には感謝の気持ちが絶えません。
NHK Eテレで月1回放送する「福島をずっと見ているTV」という番組の企画で、2012年12月に福島第一原子力発電所を訪れました。実際に作業の現場を見せていただき、作業員の方々に話を聞いて、その気持ちはより強くなりました。
現場では中の様子を写真に撮らせてもらったのですが、防護服を着て、ゴーグルをしているとカメラのシャッターを押すだけでも大変です。そういう状態で作業を続けるのは並大抵ではないと痛感しました。
作業員の方のお話も印象に残っています。事故前から原発で働いている作業員の方は「事故になって申し訳ない気持ちでいっぱいだ」とおっしゃいました。自分は被害者であり、加害者でもあるという複雑な思いで作業を続けていると言いました。家族にはできれば仕事を辞めてほしいと言われながら、使命感を持って仕事を続けている人もいます。
この仕事を誰もやりたくないと言ったら、日本はどうなってしまうのだろう――。そんな思いに駆られました。厳しい条件の中、日々仕事を続ける作業員の方々は、御本人たちは英雄視しないでほしいと言うとは思いながらも、私にとって「ヒーロー」のような存在に思えます。
福島の、そして廃炉に向けて働く人の「今」を見守っていきます
箭内さん:
私はこれからも、ずっと福島の「今」を伝え続けたいと考えています。
私が作業の現場を訪ねた時、作業員の方は冬なのに、パンと冷たい牛乳で食事をしていました。いまは給食センターもできて、温かい食事も取れるようになったそうですね。少しでも働きやすい環境が整っていくことは、作業を見守り続ける私たちにとってもうれしいことです。
作業の状況がどうなっているのかはもちろん大切です。ですが、それだけではない作業員の方々の日常、例えば、今日の食堂の献立とか家族に子供が生まれたとか、些細なことでもいいから、日常の出来事を知りたいですね。そうすることで、廃炉作業をより身近に考えられるのではないかと思います。
原発に対する考え方はさまざまですが、そういう議論を越えたところにあるのが廃炉という作業です。この瞬間にも、廃炉作業と向き合っている人がいることに、一人でも多くの人に思いを馳せていただきたい。そして、私の活動が、少しでもその手助けになることを願っています。
箭内さんの被災地支援活動
猪苗代湖ズのヒット曲は「福島と結婚する」という宣言歌
箭内さん:
普段はクリエイティブディレクターとして、テレビCMや映像作品を企画・制作する仕事をしています。その一方で、音楽とのかかわりは深く、ミュージシャンとして同郷のアーティストたち4人と組んだロックバンド「猪苗代湖ズ」でギターを担当し、また、毎年秋に福島県で開催する「風とロック芋煮会」という音楽イベントの実行委員長も務めています。
猪苗代湖ズも風とロック芋煮会も震災前から行っている活動ですが、地元には家族も友人もいるし、ライブに来てくれたお客さんもたくさん住んでいます。私には福島との“つながり”がある。その人たちが震災と原発事故で大変な状況になっているのを人ごとには思えなかったのです。自分に何ができるかを考え、その思いを音楽に託したものが、猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」です。
少しでもみんなを元気づけたい、みんなの力になりたいという思いを込めたものですが、それは「がんばれ」という励ましの言葉では表現できません。あの歌は「ずっと福島を支え続ける」というメッセージです。もっと言えば「福島と結婚する」という気持ちに近い。あの歌は私にとって、その宣言でもあるのです。
震災から5年が経ちますが、いまも避難を余儀なくされている人、風評被害に耐えながら地元で暮らす人、そして福島第一原子力発電所で廃炉作業を続ける人が大勢います。過去ではないこの状況を、私たちは決して忘れてはならないと思います。
- プロフィール
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クリエイティブディレクター
箭内 道彦さん大手広告代理店を経て、有限会社「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、サントリー「ほろよい」などの広告キャンペーンを手がける。「猪苗代湖ズ」のギタリストとして2011年のNHK紅白歌合戦に出場。NHK Eテレ「福島をずっと見ているTV」、福島県内の59市町村をめぐる、月1回の公開生番組、ラジオ福島「風とロック CARAVAN福島」の司会を務めている。
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